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旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

≪洪水の前≫



 今夜の作品  ≪洪水の前≫

洪水の前・・・

ノアの日のことである。

マタイ伝によると
ーーーーーーーーー
人の子の来臨も、ノアの日のようである。
なぜなら、洪水の前の日々、
ノアが箱舟に入る日まで、
人々は食べたり飲んだり、めとったり嫁いだりしていて、
洪水が来てすべてのものを取り去るまで、
その裁きが来ることを知らなかったからである。
人の子の来臨も、そのようである。


ーーーーーーーーー
この作品は冒頭に
若者の生態を描こうとしたのではなく、また、人種偏見を
描こうとしたのでもない。
受け取るのは観客の意のままにとある。
ーーーーーーーーー

だが、≪洪水の前≫と題名するからには、
前記のマタイ伝の意味は大きい。

★耳の痛い言葉である。

裁きは終わったところである。
ジャン....懲役5年。
リシェール...懲役10年。
フイリップ...懲役10年。
少女リリアンヌは16歳だということで無罪となった。

その罪状はこれから、彼らそれぞれの親たちの
回想ーーフラッシュバックーーを交えながら、
5人の子供達の生活状況を明らかにしながら、
なぜ、このようになったかを描いてゆく。

5人は仲の良い学生グループであった。
教授であるリリアンヌの父の生徒達である4人の男の子・
みんな戦後の混乱と不安の中に成長した子供達である。

ダニエルは、
孤児で、両親はナチの収容所で死んだユダヤ人。

ジャンは
母一人子一人の質素な暮らしだが、息子にすべての夢を託し、
あれこれと過干渉する..気の弱い子である。

リシャールは
音楽家の息子で、父はナチの収容所を出てからは、極度な
神経質な性格となり、家庭は暗くユダヤ人を憎む。

フイリップは金持ちの息子だが母は、愛人に夢中、
子供のことなど顧みない両親のエゴと息苦しい社会に
うんざりしている。

リシャールは教授の娘、リリアンヌを愛している。
リリアンヌはまだ16歳。
兄はコミュニストで教授の父と争いが絶えず、彼女は孤独である。

ある日、リリアンヌはフイリップに誘われたレストランで
フイリップの母が愛人と一緒のところに
金をもらいに行くのに同行して、
一緒に食事をした後、
その愛人に見初められ、送り狼になるところをすんでのところで
逃げた。

5人はお互いの傷を共有する中で、
フイリップが母からもらったヨットで夢の島へ行こうと
話がまとまる。
資金をどこから調達するかということになり、
フイリップの母の愛人、モンテッソン氏をターゲットに選ぶ。

まず、リリアンに気のあるのを利用して、
彼女が邸に行き、
食事に出かけようと持ちかけ、窓の鍵を開けておいた。
4人は留守の間にお金を盗み上手くいったが、
見張りをしていたジャンが巡回中の警官を射殺してしまった。

翌日、邸外に止めてあった車のナンバーから、ダニエルに
嫌疑がかかった。

その頃、モンテソン氏は、彼らの仕業と気付き、
フイリップは彼に救いを求めるが...

夫を棄てモンテソン氏の元に走ったフイリップの母が
二階にいることを知り、会おうとした。
だが、モンテソンに邪険にされた母は
泣いているだけであり、
息子の事件のことなど頭にはない。


狼狽した彼らは、もし、警察に捕まったら、
ダニエルが拷問にどう応えるかと、試みた結果、
ユダヤ人のダニエルを理解していた、三人だが、
警官殺しの罪の怖さに、
ダニエルをユダヤ人だから..という
口にしてはならないことまで介入して責めた。

気の弱いジャンは犯した罪の深さに自殺を図る。
母の悲しみ...
そこへ来合わせた刑事にすべてを告白したのである。

あれだけ結束していた5人だが、子供達とはいえ
それぞれに自分の身が可愛い。

その頃、リリアンヌはリシャールと話し合って、
子供の浅知恵でいいように筋書きを作り、
ダニエルの浴槽に..ガス管をゆるめに....

そしてダニエルは死んだ。

ーーー
そして、裁判は終わった...のである。

判決が下される前に裁判官は親たちに告げた。
””あなた方にはどの程度の責任と罪が?
応えられるのはご自身だけでしょう。裁かれるのは、
あなた方ではなくお子さんだけです。

もし、陪審員達があなた方の生活や、秘密を知っていたら
評決は異なったものになったでしょうが、もう遅すぎます。
評決が下される。””

無罪となったリリアンを観て安堵するリシュール。
そして、フイリップは今なら言える、、、リリアン、僕も
君が好きだった。

そして、ジャンは僕が殺したのに、僕だけが刑が軽いと涙ぐむ。

まだ17歳に成り立てで減刑されたのだ。

そして、リシュールの父は裁判所を出て、ジャンの母に言う。

  ”陰謀だ、陪審員にユダヤ人がいたんだ”と。
 判事の告げた言葉は
結局この親たちにはちっとも伝わってはいなかった。
裁かれるのはこの親たちであったかもしれない。

戦争が始まったら誰が私を護ってくれるの?と
父に訴えたリリアンヌ・

ユダヤ人でもダニエルはすばらしいやつだよといった
リシュールの言葉に耳も貸さなかった父。

過保護で気が弱いジャン。

みんな良い子なのだ。

どこで歯車が狂ったのか..?

孤独と不安を慰めあう彼らの夢見た夢の島。
親たちもまた夢の島どころではなかった時代でもある。

ここに登場する子供達は不良でもなんでもない。
それぞれの家庭に問題は抱えていても、
戦後の家庭には、それはどこにでもありうる問題であった。
だからどうだと言われればそれまでであるが、
4人の男の子達の青春、悩みと、溢れるエネルギーを
フランスという国から覗うと、
ハリウッドの≪理由なき反抗≫と比較すると面白い。

≪裁きは終わりぬ≫や、
以前紹介した≪眼には眼を≫のアンドレ.カイヤットの
監督作品です。

眼には眼をでは、人が人を裁いた...
人が人を裁けるのかという問いかけを
いつも投げかける監督です。

洪水がやってくる前に...が間に合わなかった。
カイヤット渾身の傑作です。

リリアンヌに扮したマリナ.ブラデイは
日本ではこの作品でデビューしたわけで、
その鮮烈さと、可憐さは多くのフアンをつかみました。

1954年度作品  仏   1954年度カンヌ国際映画祭で
国際賞を受賞。
監督 : アンドレ・カイヤット
脚本 : アンドレ・カイヤット / シャルル・スパーク
撮影 :  ジャン・ブルゴワン




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